石原の「厚化粧」発言について

場合分け(1):「石原は直情型の人間で、いつでもどこでもいいたい放題に発言する」という前提を置く。発言は多くの人の感情を刺激し、とくに女性票を遠ざけ、逆に小池陣営を大いに援護してしまっているので、これは大失敗ということになる。

場合分け(2)「石原は案外理性的な人間で、自分の発言がどのような帰結を生むかをちゃんと心得て行動している」という前提を置く。すると、本当は石原は小池陣営と裏で繋がっていて、「あんたんとこに票が行くようにするからね」と恩を売っている、もしくは恩を売るまではいかないにしても、都連の会長である息子に頭があがらないようにしている、ということになる。いずれにせよ、この場合は、真剣に暴言を演じて、多くの人々に「なんてとんでもないことをいうのか」と思わせなければ小池に同情がいかないのであるから、発言は暴発でもなんでもなく、明確な目的をもって行われたということになる。

さて、この二つのシナリオはちょっと考えればどちらも思いつくが、実はどちらも間違っているのではないかと思う。まず、(1)のシナリオにあるような「放言癖のある石原」像は、一般的には定着しているが、あそこまで(キャリアの上では)成功した政治家が、自分の発言の帰結をまったく考慮しないで、右から左へいいたいことをいう、ということはボクにはちょっと考えられない。政治家というのは、かならず政治的損得計算をどこかでしていると思う。しかし、その一方で、(2)は、やや想定が行き過ぎているのはないか、と思う。もし石原と小池陣営が事前につながっているのであれば、どこかでしらじらしさがにじみ出てきて、演技であることがばれてしまうのではないか、と思う。

そこで、もうひとつの可能性を考える。場合分け(3):「石原は不確実性が高いなかでは、リスクヘッジ型の行動をとる」という前提を置く。たしかに今の時点では優勢だが、小池が勝つとは限らない。自分の発言で小池が勝てば(そして、小池に女性票を誘導してやっただろと言えるようになれば)、結果的には上の(2)と同じで、ほら俺(たち親子)に恩があるだろ、とあとでいえることになる。そして、万が一、増田が勝ったとしても、自分は一生懸命(暴言までして)あんたを助けたんだ、ということができる。(3)が正しいとすると、石原と小池は事前につながっている必要がない、というか、つながっていてはならない。石原にしてみれば、自分の真の選好を隠すことが目的なのであって、石原と小池はお互い、意図の読み合いをしていることになる。実際、小池は(そして増田も)「なんであんな自分を助けるような発言をしたんだろう」(増田にとってみれば「なんであんな余計なことをいってくれたんだろう」)と考え込んでいる、というのが真実に近いのではないか。石原は、この第三のシナリオに沿ったゲームをプレイしているのではないか、というのがボクの推理である。