トランプ政権のシリア攻撃について

ボクは、政治や国際関係についての説明として、属人的な説明はなるべく排除すべきであると、ずーっと主張してきた。ヒトラーがいたからドイツが拡張主義に陥ったのではなく、またゴルバチョフがいたからソ連が改革に踏み切ったのではなく、より深層にある、なにか構造的ないくつかの要因、すなわちひと一人では制御しえない諸要因が、ヒトラーやゴルバチョフをそれぞれ時代の申し子として生み出す背景を作ったと考えるべきである、と常々いってきた。

なぜ属人的な理由を嫌うのか。事件や現象の原因として属人的な要素を決定的なものとみなしてもよい、とすることになると、とくに歴史的に重要な事件・現象は、どれもそれぞれにしか登場しないユニークな要因によって説明されるということになりかねない。そのような説明では、異なる事件や現象を比較したり、そこから一般化された法則や命題を導くことができなくなってしまう。政治や国際関係をたんに会話のネタにするレベルであればよいかもしれないが、すくなくとも学問的に(社会科学として)政治や国際関係を分析することからは、遠ざかるからである。

さて、ところが、このボクでさえ、現在のアメリカのトランプ政権については、どう考えても、ドナルド・トランプという人間の個性抜きには、うまく解釈できないであろうと思っている。たしかに、トランプ政権の誕生については、上記のヒトラーやゴルバチョフと同じように、なぜ彼のようなとんでもない人間がリーダーに選ばれたのかという時代背景を、構造的に探索することができるかもしれない。しかし、彼がどのような行動をとるか、したがって今のアメリカ政府がどのような政策決定をするかについては、トランプ自身に関係する属人的な要素を抜きにしては、おそらく説明も予測も不可能である。その中でもっとも重要な特徴は、彼の行動が子供じみている、ということであろう。たとえば、「言われたら言い返す」、「自分の非を認めない」、そしてみずからのセンテンスを完結できないことに象徴されるように、いろいろなことに気が散って「集中して物事を考えるタイムスパンが極端に短い」などによく表れている。

そのトランプ政権がシリアを攻撃した。このことについて、日本のメディアでは、いろいろな詮索がなされているが、ボクからいわせると、これらは大方間違っているのではないか、と思う。皮肉なことに、これはいつものボクのメディア批判とは逆方向からの批判になるのだが、今回は、あまりに構造的な要因を深読みしようとしすぎているのではないかという気がするのである。たとえば、ロシア(プーチン)と気脈(金脈?)が通じていると思われていたにもかかわらず、その友好国に突然牙を向けたことで、そこにはなにか戦略の転換があったのではないか、とか。あるいは、シリア攻撃は、北朝鮮へもメッセージを送る意図があって行われたのではないか、とか。こういうような解釈をしようとするコメンテーターたちは、トランプがあたかもいままでのリーダーと同じようにものを考え政策を決定する常識人だという立場に立ち、トランプという個性を消したところでこの事件を説明しているように思える。本当に、そういう立場を、彼らは擁護するつもりなのであろうか。

もし、(ボクのように)トランプがユニークな存在であり、したがって(学問的には悔しいけれども)彼はいままでの誰とも似ていない非常識なリーダーであるということを認めるとすると、今回のシリア攻撃は、たんなる思いつき、ないしは気まぐれだったのではないか、ということになる。そう、彼は、なにしろattention spanが短いので、自分の行動の一貫性などということに、一切気を使わない人間なのである。だから、ロシアとのこれまでの経緯などはすっかり忘れて(もしかするとシリアとロシアとの深い関係というのも理解できておらず)、このような行動に出れるのである。ましてや、トランプには、議会と調整することも、国連の安保理で根回しすることも、同盟国と相談することも、彼の行動様式の中にはあり得ない選択でしかない。

アメリカのシリア攻撃の意図をいろいろと詮索したり深読みしようとすること自体、実は、現在のアメリカを見誤ることになりかねないのである。