とんかつ屋の業界言葉について

ランチにとんかつ屋に入り、「ヒレカツ定食」と注文する。「3番さーん、ヒトクチカツ」。

「?」

瞬間、ひたーっと不安がよぎる。あの、ボクは、ヒレカツを注文したんですけど。「一口カツ定食」という項目は、ボクが見た昼のメニューには、たしかなかったんですけど。

ただ、見たといってもじっくり確かめたわけではないので、もしかしたら「一口カツ定食」というのもメニューにあったのかもしれない。それとも、この店では、<ヒレカツ>のことを<ヒトクチカツ>というのだろうか。

こんな時、みなさんはどうしますか。注文を取りに来たひとに、もういちど「あの、ヒトクチカツではなく、ヒレカツをたのんだんですが・・・」と、わざわざ確認しますか。

いや、しかし、まてよ、とんかつ屋業界では、ヒレカツ=一口カツという等号が成り立っているのかもしれない。あるいは、業界でなくても、とんかつ屋に入る客はみんな、ランチ時ヒレカツ定食のことを、別名一口カツというというのを知っているのかもしれない。知らないのは、ボクだけなのかもしれない。だとすると、わざわざ確認しようものなら、「あんた、そんなことも知らないの」と、まわりの笑いものになってしまうかもしれない・・・。

というわけで、ボクは真実を確認することもできず、ただ待つことになりました。不安は募るばかりで、落ち着いて本も読めなければ、新聞も読めやしない。

どきどき。いらいら。はらはら。どきどき。

そして、そうこうしながらも、いろいろ思考は続くわけです。そもそも「一口」というのは、サイズの問題である。しかし「ヒレ」というのは、肉の種類、部位の種類の問題である。だから、この二つを混同することはゆるされない。それはわれわれ学者からいわせると、カテゴリー誤謬というものである。それが証拠に、原理上、一口サイズのロースカツだって、存在しうるはずではないか。しかるに、仮に業界の用語として、ヒレカツ=一口カツという等号が成り立っていたとしても、それは妥当ではない。それは業界の方が間違っているのであって、ボクの方が正しい。

・・・などと思考がめぐっていると、運ばれてきました。「はい、ヒレカツ定食です。」

「?」

なんだよー。さっき、あんた、キッチンにむかって「ヒトクチカツ」っていっていませんでした?なあーんだ、なああーんだよー、心配させやがって。しかし、おかしいでしょ? なんか違う呼び名を使い分ける必要あんの? ボクがたのんだの以外に、ヒレカツ定食と間違ってしまうような項目があんの、昼のメニューに? あのさぁ、こっちは落ち着いて何もできなかったんだよ、出てくるまで。わかる? あんたの一言、客を不安におとしいれたんですよ。客を不安にさせるなんて、サービス業として、おかしいんじゃないの、えっ?!・・・。

などという、クレームの言葉が次から次へと浮かんできましたが、もちろん全部のみこみました。そして、おいしくいただきました。

ちなみに、三切れのヒレカツがそれぞれ半分に切ってあって、とても食べよい一口サイズになっていました。

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